「自分のひと押しで成功するか否かだったので、責任は重いな、と思いました。」−杉山隆男著「兵士は起つ: 自衛隊史上最大の作戦」
どうも最近、お隣さんとぎくしゃくしていて、気持ちのよくない状態が続いています。小さい地震も頻繁に起こっていますし、「いざ」というときがきてしまうのではないか。そんなことも感じてしまいます。
当然、こういうときに備えて日本では自衛隊がスタンバイしています。その自衛隊が東日本大震災の災害派遣で活躍している様を描いているのが杉山隆男著「兵士は起つ: 自衛隊史上最大の作戦」。
杉山さんといえば1986年(私が大学に入学した年です。)に出された、日本経済新聞社のコンピュータによる新聞制作プロジェクトや他の3大紙の動きを徹底した関係者への取材で綴った「メディアの興亡」(リンクは文春文庫の上巻)が強く印象に残っています。最近は自衛隊の様々な活動を取材し書く「兵士」シリーズを出されているようです。
この本でも、杉山さんだからこそ入り込める隊員たちの心情、日常へのアプローチがそこここに見られます。
仙台の駐屯地、松島の基地まで津波に襲われる中、隊員たちはどう災害に立ち向かったのか。実はこの日がくることを予期して、連隊長は地元自治体との連携を深めるための折衝を行い、中隊ごとに担当地域を決め、中隊長を日ごろから担当の自治体に通わせていたということ。前半はその宮城の展開が中心です。
後半はあのヘリコプターで原発の真上から水を投下する作戦に従事した部隊のお話し。業務の一環として、責任感はしっかりと持ちながらも、必要以上の悲壮感や気負いをもたず、「プロ」の仕事をされていることを感じました。また、支えている家族も、また隊員ともに戦っているのだなということを。今日のは、p222から。名も知らない一人一人が懸命の仕事をした結果の今日があるのですね。
「ただちに建設にかかれ」−百田尚樹著「海賊とよばれた男」
今年のゴールデンウィーク、皆さんはどのようにお過ごしになりましたか?
後半の4連休のスタート日、私はスカイツリータウンにできたばかりの「献血ルームfeel」に行っていました。朝から下はものすごい混雑でしたが、押上駅方面から近いイーストタウンの10階は静かで、快適でした。
ツリーの上とはまた違って、眺めが近いのがまたよかったりして。東武の車両基地も近いので、鉄道好きな方にはたまらないかも。
今回も血小板20単位を依頼されたので、1時間近くの採取時間。でも、これは望むところ。採血ベットにはipodとかが置いてあって、退屈しない仕組みはあるのですが、私には貴重な読書タイム。今回持っていたのは、百田尚樹著「海賊とよばれた男」(リンクは上巻に)。2013年の本屋大賞第1位受賞作品です。
日本の石油販売大手の出光石油の創始者出光佐三氏(この本の中では国岡商店の國岡鐵造として描かれています)をモデルとしたドキュメント小説です。上下巻合わせて700ページ強の大作ですが、献血中とその行き帰りと、家に戻ってからもずっと読んで1日で一気に読了しました。
主人公だけでなく、周りを固める人物も魅力的で、ライバル社は「國岡石油のあとには草も生えない」とその営業面、働きぶりを脅威の目で見ていたほどの働きもの。終戦後、石油が売れなくて、どうすることもできなかった時期、今後のためと、国のために会社は赤字覚悟でタンクの底から石油をくみ取る作業を受注。社員は命がけでその作業に従事しましたが、働けることのうれしさでその目は輝いていました。
社員だけでなく、最初に創業資金を与えたオーナーとの関係、銀行家の支援、ライバル社との駆け引き、官僚制度や他社との攻防など見どころは豊富です。イランから直接石油を運び出して、輸入を世界初で成功させたエピソードはハラハラどきどき。この人々がいたからこそ、日本の石油会社には外資系だけでなく、民族資本が生き残ったということがよくわかります。
今日のタイトルは序章から。終戦後、何も仕事のない社員は会社がつぶれることを覚悟します。そのとき国岡店主はこう叫びました。
「ただちに建設にかかれ」
(中略)
「しかし−」
「その道は、死に勝る苦しみと覚悟せよ」
(p16)
その歩んだ道をぜひお読み頂きたいと思います。
「一日読まざるは一日衰える。」−森信三「運命を創る」−「修身教授録」抄・10講
長いようで短いのが連休ですね。連休中にやりたいこと、やらないとならないことをリストアップしておいたのですが、できたことは半分くらいですか(苦笑)でも、夏休みと一緒で、最後の一日が大切ですよね。もう少し頑張ってみましょうか。
さて、外に出たり、家でコマゴマやったりしている中でも本はしっかり読んでいました。ただブログに書くとなるといろいろ大変で、特に大作が多いので、なかなかご報告できておりません。今日は、中身の詰まった抄録からご紹介。
森信三著「運命を創る」。
森さんは明治29年の生まれ。京都大学哲学科に学び、大学院を経て、天王寺師範の専任教授になり、師範本科生の修身科を担当されていました。つまり、先生を志望されている方に、その生き方について教えていた方なんですね。
その教えた内容「修身教授録 」
のダイジェスト版がこの本です。
森先生は、若者たちに体を作るために食べ物を食す。それは一食欠けてもつらいでしょうとおっしゃいます。対して、読書は・・・
この読書が、われわれの人生に対する意義は、一口で言ったら結局、「心の食物」という言葉がもっともよく当てはまると思うのです。(p40)
このあと森さんは、生徒に対して、本を読み続ける意義を伝えます。実践家も本をたくさん読んでいる。今学生のうち本を読まずに、あとで必要になったら読もうなんて思っていてもなかなかできないものだとか。教科書は土台で、その上に立てるものが自主的な読書だとか。
少しでも続けていきましょうか。心の食物=読書の摂取を。そうしないと、今回のブログタイトルのようなことに。。。(p56)
「メルトダウンしたのは福島第一原発の原子炉だけではなかった。」−船橋洋一著「カウントダウン・メルトダウン」
今日は風の強い一日ですね。低気圧に関する情報がトップニュースで報じられていますが、その次のニュースも心配な情報です。
「汚染水漏れ 冷温停止宣言後最大規模に」。ストロンチウムが除去されていない冷却水を、地下の貯蔵施設にため込んでいたけれど、老朽化でシートが破れたことにより水漏れが起こり、大量の放射性物質が外部に放出されてしまっている。。。
事故発生からもう2年。けれど、まだ解決されていない問題、危機はまだ続いています。
2年が経ったことで当時は、隠れていた事実、伝えられなかったこと、情報量が多すぎて整理がされていなかったことなどが徐々に伝えられてきています。取材や書く為の時間が必要だったということもあるのだと思います。私が読んだことのある本のノンフィクションの書き手の方々も、続々とこの分野の取組を世に問うています。
今回はそんな中から同盟漂流 、通貨烈烈(学生の頃よんだなぁ)など、日本と欧米にまたがる政治・経済問題とそこに携わる人物の動きを一冊の本にまとめたジャーナリスト。この原発事故では民間調査委員会をプロデュースし、調査報告書をプロデュースした船橋洋一さんが書いたカウントダウン・メルトダウン (リンクは上巻)を。
この本は上下あわせて900ページ強のボリュームがあり、事実の重さ、証言のきわどさ、迫真ぶりなどもあって、読後感としては重く、ずっしりとしたものが残ります。震災発生直後から、福島第一原発、オフサイトセンター、東京電力本店、地元自治体、首相官邸、経済産業省、文部科学省、保安院、原子力安全委員会、原子力委員会、防衛省etcにいったい何が起き、人々はどう動き、どう「動かなかったのか」が克明に記されています。
結局、この福島第一原発では何が起きたのか。それは
東電の経営も、原子力安全・保安院の組織も、原発の安全規制体制も、原子力を推進してきた原子力行政も、それらの知的、ビジネス的、キャリア的結合体である原子力ムラも、残余リスクを「想定外」として捨象してきた原子力の"安心・安全共同体"もみな等しくメルトダウンしていった。(P457)
そもそも事故は起こるものとして、その備えができていたか。起きてしまったあとに、事故のダメージ減少のために適切な処置がのできたか。深刻な問題となった時、毅然とした決断ができたのか。かろうじて最後の最後のリーダーシップは発揮できたようですが、危機はまだ続いているようです。原発も、日本全体も。
「投手コーチが教えられるたった一つのこと」−吉井理人「投手論」
残念ながら3連覇ならずだったWBC日本代表。でも、予選2次ラウンドの台湾戦(私もドームで観戦していました。)など、白熱した試合が多くて盛り上がりましたね。さあ、そして日本のプロ野球も開幕しました。夜にナイターをやっているとなんとかなくでもその経過が気になり、テレビ・ラジオをつけたり、ネットをチェックしたりという日々が戻ってきました。
そうそう、アメリカMLBもスタートしたみたいですけど、いきなりダルビッシュは惜しかったようですね。でも彼は若いですから、これからもどんどん快投を見せてくれるでしょう。
そんなタイミングにぴったり合うMLB、日本プロ野球、どちらを楽しむうえでも参考になる本を今日はご紹介しましょう!伝説の1988.10.19の時は近鉄のクローザー。そして野茂投手(野茂さんはノーヒットノーランをアメリカで2度達成しています。)に続いてMLBでも活躍。去年までは日本ハムの投手コーチの吉井理人さんが書いた投手論 (PHP新書)。
現役を離れてまだ5年。日米で選手として経験を積み、そのあと去年は優勝チームの投手コーチの吉井さん。若いころ決して優等生ではなかったようで、投手交代に不満でボールを蹴飛ばし、翌日から2軍行き(p24)みたいな現役時代の話、コーチとしても注目の斎藤祐樹をコーチとしてどうみたか、ダルビッシュはどんなピッチャーなのかなど、エピソードも豊富です。
そんな吉井さんが投手コーチになって思ったこと。教えられることと教えられないこと、教えるべきでないこと。と、教えるタイミングなど、野球に限らず参考にできることはいろいろあります。
今日のブログタイトルの「投手コーチが教えられるたった一つのこと」は第3章にあります。さすがにその一つのことを書くのはどうかとも思いますので、ぜひ本書をお読みいただければ。技術的なことより、やっぱり日常的にできることが大切なんですね。
「今夜は寒いから、トン汁にしよう。体が暖まって、よく寝られるぞ」-重松清著「また次の春へ」
本を読みたいのに、読めていません。2月は怒涛のように流れて、もう3月もおわろうとしています。
やっと、少しの余裕ができて、本も読みたいし、ついでにいろいろすませいたいしと・・・先週久々の献血ルームへ。成分献血の1時間強は貴重な読書タイム。ここで何をよもうか。もしかして格好の悪いことになるかもしれないけれど、どうしても読みたいよなぁと思い、持っていったのが重松清著「また次の春へ」。
恰好の悪い?
どうして、恰好の悪いことになるかというと、油断しているとつい涙腺が緩くなってしまうから。今回もそんな話がたくさんつまっています。タイトルでご紹介したのは、この本に収められている短編の中の一番最初の章にある。「トン汁」の中から。(p14)
子供たちに「トン汁」をふるまおうとするお父さん。でもめったにそんなことしたことないので、なぜかみそ汁の具には、豚肉ともやしが。もやしだったら、包丁がいらないからと。でもこれがきっかけに、オリジナルのトン汁となり、子供たちが成長していってもそれぞれの家庭で形を変えながら残っていき、やがて、それはと震災の避難所へとつながっていきます。
いつもながらの重松さん流のストーリー構成。献血の看護師さんにうるうるしているのばれないかなと平静を装いながら、でも内心、感動しながら読んでいました。やっぱり重松さんの作品は家で誰にも見られずに、読んだ方がいいなと再確認しました。
今日は春を味わいに、これから会合とそのあとの打ち合わせにお出かけです。2月にいっぱい働いたせいか、気になるコレステロール値も下がってなんとか正常範囲に。(献血時の血液検査の結果です。)今日は少しは食べても大丈夫かな?なんて。
勝利の方程式ではなく、勝負の方程式を−ビジネス・マネジメント・スタジアム
あっという間に2月ですね。2月1日といえば「球春」。キャンプインです。特に今年はWBCがあるので、主力選手の仕上がりが早そうですね。
今日ご紹介する本は、小山龍介著「ビジネス・マネジメント・スタジアム」。
ん、「ビジネス・マネジメント・・・」なのに、冒頭野球の話題だったのはなぜ?・・・ポイントは最後の「スタジアム」。実はこの本、おととしまで中日ドラゴンズを指揮していた落合博満前監督のマネジメント思想を元に書かれた本なのです。
落合監督は、選手を大人扱いし、選手のミスプレイや期待に応えられなかったことも指摘はしません。その代わりプレイの責任は自分にある。だから使わない。使ったら使った責任は自分が負います。
全力を尽くしても、必ずしもいつも勝てるとは限りません。
勝負には相手が存在します。打者がヒットを打つためには、投手がボールを投げなければなりません。相手がいるゲームにおいて「絶対」ということはないのです。
そしてこれは、ビジネスも同様です。ヒットメーカーと呼ばれる人がいますが、優れた成果を上げてきた人であっても「必ず売れる商品」をつくる方程式はもっていません。なぜなら、それを受け取る消費者側の心理が、常に変化し、一定ではないからです。
相手がいると、事態は必ず複雑になっていきます。このなかで「勝利の方程式」など描けないのです。しかし、勝利できるかどうかわからないけれども、そこで勝負することはできます。自分の中の<因>を信じて勝負をかけるということは、誰しも可能です。
勝利は万人に開かれているわけではありませんが、勝利のチャンスは誰にでも平等に訪れます。負け戦になる可能性が高くても、そこで勝負をすることが、次の可能性を開くかもしれません。
たとえばピアノを必死に練習しても、必ずしもプロの演奏者になれるかどうかは保証されていません。でもそのリスクを取らない限りは、可能性は生まれません。
自分の<因>を信じる。そして他人の<因>を信じる。そこに、セルフマネジメントを含めた、マネジメントの本質があります。(pp208-209)
全力を尽くして「勝負」しましょうか。きっとその「勝負」の結果に関わらず、得られるものがあると思います。私も懲りずにまた新しい勝負・チャレンジをするつもりで準備中です。3月にはまずその一つが発表できるといいな。と思っています。