「勉強っていうのは、わからないことということに慣れる練習をしているんだ」

講師をやっていますと、いろいろなことを考えます。

授業前には、「どうやったら理解してもらえるだろうか」「面白く聴かせるにはどうしたいいのか」「どんな人が来るのだろうか(単発もののケース)」「自分が苦手な分野だけど大丈夫かな」なんてことをつらつら考えながら準備を進めます。

講義を始めると、生徒・受講者の顔色(笑いが起きてるとか、眠そうだなとか)と、受講目的(例えば個人で受けに、来ているのか会社派遣か。公的なものか、私的なものか)なんてことと、自分ができることと、その時間に最低限しなくてはならないことを考えながら、懸命に講義を行います。

講義後にアンケートなどを取っている場合は、その反応を一瞬気にして、でも、すぐ次がありますし、私の場合、とにかく教える科目が多岐にわたるますので(経営系・財務系・IT系・キャリアカウンセリング系・・・)そちらに備える。そんなことの連続です。

教えていることに意味があるのか?その問いかけは自分には時折しているものの、実際、勇気がなくて受講生に聴くことができているか?・・・と言われると困ってしまう自分がいます。

今日、ご紹介する本は、希望のつくり方 (岩波新書)

著者の玄田有史氏(東京大学社会科学研究所教授)は、NHKクローズアップ現代」などでも取り上げられた「希望」をテーマにした研究の第一人者とも言える存在。この本は参考になりますし、加えて読んでいると玄田さんの優しさとか暖かさにも触れられるような気がして、ちょっと肩のちからが抜けて、楽になれる、そんな本です。

気になるフレーズがいくつかありますので、この本は数回紹介したいと思いますが、今日は玄田さんが講義の中で生徒さんに問いかけたという「勉強の意味ってなんだろう?」という問いかけの玄田さんなりのお答えから。

玄田さんがある中学校の体育館で全校生徒向けに1時間近く講義をしたあと、質問の時間となり、こんな問いが出てきたそうです。(pp158-159)

「なんで勉強って、しないといけないのですか?勉強して将来役に立つことが、本当にあるんですか。自分には、勉強する意味がわからないからする気がしない。」

(中略)

私はそのときこう答えました。

「学校で勉強していることで社会に出てそのまま役に立つことなんて、ほとんどない」。

そのあと玄田さんは、本当は勉強が好きじゃない人は手を上げてと尋ねると、最初は恐る恐る、次第に手を上げる人が増えていったそうです。その様子を見て彼は、自分でも思いがけなく、こう答えたのだそうです。(p161)

「それでいいと思うよ。勉強というのは、いろいろなことが、わかるようになるということもあるけど、本当をいえば、わからないことだらけだよね。でも、勉強っていうのは、わからないということに慣れる練習をしているんだ。

自分がわからないということをきちんと理解しておく大切さ。ソクラテスは「無知の知」と言いましたが、わからないということを理解し、自分に納得させる重要性、謙虚さ。大切ですよね。

私も、これからもずっと「勉強」を続けて、「わからない」ということとずっと一緒に格闘していきたいと思っています。

じゃ、わからないとか、できないということを知っておくことと、「希望」との結びつきはどうなっているのでしょうか?って。

それはまた改めて次の機会にご紹介しますね。