「孤独の時間を見つめよ」

時に、孤独を直視せよ。海原の前に一人立て。自分の夢が何であるか。海に向かって問え。青春とは、孤独を直視することなのだ。


今日、ご紹介する本は、渡辺憲司著「時に海を見よ-これからの日本を生きる君に贈る」

渡辺さんは現在66歳。大学教授から、系列の高校の校長先生に転出され、その高校の卒業式が3.11の影響で中止になったため、ホームページで「時に海を見よ」というタイトルのメッセージを発信しました。このメッセージが反響を呼び、さらに加筆した上で、この本が5月に緊急出版されました。

冒頭はそのメッセージの一部分。熱いメッセージです。私も感動しました。

しかし、渡辺さんは、この本のメッセージに続く、「これからの日本を生きる君へ」編の冒頭で謝っています。
このメッセージは津波被害という天災を意識して発信したもの。しかし、その津波が引き金となって起こった原子力発電の事故は、近代化・進歩のもとで大人が大きな負の遺産を若者に残してきた、今も残しつつある、その表れなのではないかと。

私は、臆病のまま時代に流された。必要を越えた豊かさを求めた。過度の贅に身をゆだね、何が大切なものかを忘れていた。

諸君に、海を見ることへの道を鼓舞しながら、混迷した老骨の自己を、大人の自分を、眼前に直視することに、どれほど厳しかったのだろうか。(p19)

この自己反省に立った上で、渡辺さんはそれでも若者たちに、「時に海を見よ」と力説されています。それは海を見る、日常の空間から離れることが孤独を見つめることだから。

「自分がひとりである」ことを見つめると、「相手もひとりだ」ということが見えてくるのではないだろうか。(中略)
それが「孤独の時間を時間を持つことが、多くの人とつながる」ということだ。(p28)

自分に厳しく向き合い、迷い、考え、何かをしようと立ち上る。その時に、人とのつながりができる。
きっとそんなことを渡辺さんはおっしゃりたいのでしょう。

とっくに青春といえる歳はすぎても、自分を見つめ考えを深めさせてくれる本です。また数年経って読み返したとき、きっとまた違う味わいを感じさせてくれるのではないかとも思いました。