「競争を正視するとは、自身の内なる虎に克ち、他者を尊重することにあるのだと。」

気になった本を、とりあえず買っておくと、時々なんで「この本」を買ったのか思い出せないことがあります。

ただ、たまたまそういった本を読んでいると、意外な発見があって驚くことがあるのですが、今日はその種のご紹介。

齊藤誠著「競争の作法 いかに働き、投資するか」 (ちくま新書)。2010年の日本経済新聞エコノミストが選ぶ経済図書ベスト10の第1位の本ですから、何をいまさらと思われる方が多いと思うのですが、今の経済状況。特に資金過剰の中の景気後退なんていう姿をみているとこの本の存在価値は高いのかなと思います。

刺激が多い本です。「豊かさは幸福を支えるが、豊かであるから幸福であるとはかぎらない」(p16)とか、「リーマン・ショック」に端を発したといわれる日本の景気後退ですが、実はその1年前から「為替レートの目に見える円安」と「物価が外国より安定していたことによる目に見えない円安」という「二つの円安」のメッキ(これが戦後最長の景気拡大の大きな理由)が「目に見える円高」で打ち消されて始まっていた)(pp94-97)など、目からウロコの指摘が。

この本の中で齊藤氏は、日本全体が2割生産コストが高いのだから、2割生産性を上げるか、生産性コストを下げるしか、経済学者としては処方箋はない。それでは各人がそれに向き合って生きていけるのかと指摘し、
それでは、日本に住む我々はこの時代にどう対処しなくちゃならないのか。
齊藤先生はこの3点に集約できるとまとめています。(pp217-219)

第一は、一人一人が真正面から競争に向き合っていくことである
(中略)
第二は、株主や地主など、持てる者が当然の責任を果たすこといくことである
(中略)
第三は、非効率な生産現場に塩津げされていた労働や資本を解き放ち、人々の豊かな幸福に結びつく活動に充てていくことである


冒頭のタイトルはこの第一の説明に出てきたフレーズです。 才能のある人間が競争や切磋琢磨を避け、結局は身を虎に変じざるをえなかったという「山月記」(中島敦)をモチーフとしたお話。競争に向き合うというのは自分の中にある「虎」をコントロールし、優れた他者との交わりを避けず、自分が「堕ちて行く」感覚に耐えていかないとならないというこの理屈に、若干ですが、私も共鳴、共感できるところがあります。

業界チェンジで保証がない状態からまったく別の業界で這い上がりつつある感覚。でもまだ私は挑戦者。決して上がってはいないので、そうだそうだと言い切れるようになるのにはまだまだ時間がかかりそうです。というか、私が虎にならないように気をつけないと。